解析よもやま話【第24回:塑性変形と破断】

Posted 03/27/18

アルテアの中川です。先日荒川河川敷で開催されたフルマラソンの大会に出場してきたのですが、そこで思わぬアクシデントに遭遇してしまいました。ランニングの大会に出たことがある方はご存知かと思いますが、選手は主催者から配布されるICタグをビニタイ(ビニールで被覆された針金)でシューズにくくりつけて走ります。写真1のようなイメージです。コース上には一定間隔(フルマラソンだと通常5キロごと、あとは中間点およびゴール)で測定用マットが置かれていて各選手の通過時刻とゴールタイムを自動計測します。駅の改札と同じ原理ですね。

ビニタイで括られた、マラソン大会で使われるICタグ
写真1 ビニタイで括られた、マラソン大会で使われるICタグ

今回もICタグをシューズにくくりつけ、緩まないように何度もねじってスタートしたわけですが、無事ゴールインしてICタグを返そうと思ったら何と無いのです。リアルタイムで各選手の通過地点と時間が分かるインターネットサイトで確認したところ、25キロと30キロの間で取れてしまったようです。これで記録無しとなってしまいました。写真2はスタート・ゴール地点です。ICタグが靴についた状態でマットの上を通過しないとスタートとゴールの時間が測定されません。

2018 板橋シティマラソンのスタート・ゴール地点
写真2 スタート・ゴール地点

がっかりしましたが、どうして取れてしまったのか考えてみました。まず走っているうちに緩んできた、というのが考えられますが、その場合ICタグが取れてしまってもビニタイだけは靴ヒモの間に残るのではないかと思います。何も残っていないということは、やはりビニタイが破断してしまった、というのが一番考えられます。ICタグは足の甲のどこにつけても良いので、つま先近くにしたり靴ヒモの結び目近くにしたりできます。今回はあまり考えずにどちらかというとつま先近くにつけていました。試しにこの状態で走る姿勢をとってみたところ、写真3のように蹴り出し時にICタグに引っ張られてビニタイが伸びることが分かりました。自分がマラソンを走る時にはだいたい1分間に180歩で1キロ4分ペースですので、ICタグが30キロ(120分)で取れたとすると180(歩)×120(分)×0.5(片足分)=約10,000回、この負荷が繰り返されたことになります。

蹴りだし時に引っ張られるビニタイ
写真3 蹴りだし時に引っ張られるビニタイ

ここでやっと解析の話になるわけですが、皆さんは疲労解析という概念をご存知でしょうか。針金の材料である鋼材に繰り返し荷重を負荷した場合、横軸に破断するまでの負荷回数、縦軸に応力をとって両対数グラフにすると図1のように右下がりの直線となり、ある応力以下になると水平(破断しない)になります。応力(Stress)のSと負荷回数のNをとってS-N線図と呼ばれます。

鋼材が破断するまでの負荷回数
図1 鋼材負荷をかけた場合のS-N線図

なお、これは負荷が弾性範囲内(永久変形しない)での話であり、塑性変形(永久変形が残る)するほど負荷が大きくなると、図2のように直線から外れてきます。

塑性変形を考慮した鋼材破断までの負荷回数
図2 塑性変形を考慮した鋼材破断までの負荷回数

針金は簡単に塑性変形するので、数十回程度の繰り返しですぐ破断する、という経験はあると思います。鋼材の場合、図2のElastic(弾性域)とPlastic(塑性域)の直線の交点はだいたい10,000回位になることが分かっています。つまり塑性変形するかどうかぎりぎりの負荷を約10,000回繰り返すと破断するわけです。これでビニタイが30キロ地点あたりで切れてしまった原因が分かりました。塑性変形するほどではなくても、大きく変形するほどの荷重が掛かると、ビニタイはフルマラソンのゴールまでもたない可能性が高いということです。

ICタグをもっと後ろの靴ヒモの結び目近くに取り付けると引っ張られることが少なくなりますが、この場合でもビニタイをしっかりねじってICタグと靴が密着するようにすると足の変形に伴ってICタグが引っ張られます。今回のようなアクシデントを防ぐためには今後は以下のように気をつけたいと思います。

ICタグをつま先近くにしっかりとくくりつける⇒NG
ICタグを靴ヒモの結び目近くに緩めにくくりつける⇒OK

自動車などの機械設計には疲労解析は非常に重要な技術です。1回の荷重では全く問題なくても、それが何百万回も繰り返されることによって最終的に破壊します。しかも実働状態では大きな荷重は稀に、小さな荷重は頻繁に負荷されますので、疲労解析を行うことによりそれらを総合的に考慮して評価することが可能となります。

ここでAltair HyperWorksを使用した疲労解析の例を以下に紹介します。図3のような自動車のサスペンションアームには、前後、左右、上下と色々な方向の荷重がタイヤから負荷されます。

自動車のサスペンションアーム解析
図3 疲労解析に使用する自動車のサスペンションアームモデル

図4のグラフの横軸は時間、縦軸は実働荷重の履歴を示していますが、図から分かるように荷重の大きさや頻度はランダムです。先に紹介した材料のS-N線図とこの荷重履歴を使って疲労解析を行うわけですが、実際に荷重履歴通りに何百万回も計算するのは非現実的です。そこで、レインフローサイクルカウンティングという手法を用いて等価な荷重振幅と負荷回数に落とし込んで疲労評価を行います。

サスペンションアーム実働荷重履歴
図4 実働荷重履歴

結果は図5のように損傷度(0~1の間の数値で1になったら破壊)や、その逆数である寿命(破壊にいたる負荷回数)として得られます。

損傷度と寿命
図5 損傷度と寿命の疲労解析結果

単純に一方向の最大荷重を負荷して強度解析を行うことは初期評価として大事なことですが、最終的にその製品が想定された寿命までもつのか、あるいは逆に過剰品質や重量オーバーになっていないかを設計段階で予想して品質を確保するために、疲労解析を実施するのは非常に有意義なことだと考えます。

 

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Ken Nakagawa

Written by Ken Nakagawa

HyperWorks Simulation Technology